【 第 十一 話 】 |
隊舎では考えられない程の、静かな夜。 戦闘のような食事も、3人だけだと、静かな流れの中で食べれる。 出される料理も、絶品だ。 甲 賀も颯 樹も、珍しく単衣姿になって、部屋でくつろいでいた。 そんな2人を見て、更 月 姫はまるで珍しい物でも見るように、2人の事を交互に見つめた。 「何?僕達に何かついてる?」 「そうじゃなくて、瞬も颯 樹ちゃんも単衣姿になるなんて、随分と無防備だなぁって。」 「後は寝るだけなんだから、堅苦しい服を来て無くてもいいでしょ。それに皇太子が宿泊してるんだったら、好都合。警備も厳重だろうから、誰か襲ってくるって事もないだろうし。」 そう言うと、甲 賀は備え付けの籐の椅子に腰を降ろした。 刀までも、甲 賀は手を離して、本当に無警戒だった。 颯 樹も枕もとには、刀は置いてあるが今は違う窓辺で夜風を楽しんでいた。 自分達から武器を話す好都合なんてない。 更 月 姫は、ニヤリと笑みを浮かべた。 「でも、いいの?刀って武士の命なんでしょ?」 そう言いながら、更 月 姫は甲 賀の刀を手に持った。 予想以上に重い刀に、更 月 姫は少し驚いたように、甲 賀の事を見た。 甲 賀もそれをわかってか、ニッコリと笑みを浮かべた。 「重い?」 「すごーい。こんなの振り回していたんだ♪さすが、瞬だね♪」 そんな会話を、微かに耳に入れていた颯 樹は、チラリと更 月 姫の事を見た。 なんだろうか。 甲 賀の刀を熱心に、まるで観察するかのように見つめている。 それを許している甲 賀にも、颯 樹は疑問に思った。 あの甲 賀が、人に刀を見せるなんて。 ふと窓へと視線を移した。 ふわりと日 向の影が、一瞬だけ見えた。 どうやら動きだすのだろうか。 颯 樹は、微かに手を握り絞めた。 「出来たー♪見て、見てー♪これって、私の部族の伝統の結び方なの。」 ちょこちょこと甲 賀の側に近寄って、刀を高く掲げた。 そして甲 賀の手元へ。 「へぇ…見た事のない、結び方だね?あれ?口火が切れない。」 鞘と鍔の部分を、飾り紐で結んであるだけ。 見た目は、そんなに複雑そうには見えないが、まるで封印したかのように、しっかりと結ばれていて、刀を開く事が出来ない。 凄いものだと、甲 賀は感心したように刀を見つめていた。 「へへへ♪これは結んだ人にしか解けないの。だから、これが解けるのは、この世界で私だけなんだよ♪」 「ふーん…それは凄いね。でも、それは違うと思うけど?」 「違うって何が?」 「世界で1人だけがこの印を解けるって話し。」 使い物にならない刀を脇に置くと、甲 賀はニッコリと笑みを浮かべた。 その瞬間。 ガッシャーーーーーン 窓全体が、破壊されて、破片が甲 賀や颯 樹、更 月 姫を襲った。 甲 賀は咄嗟に更 月 姫を頭から庇い、その場から飛び退いた。 だが、身体中にガラスの破片を受けていた。 「いってぇ。」 「瞬!?大丈夫!?」 自分の上に乗る、甲 賀に更 月 姫は慌てたような、心配そうな表情を浮かべた。 「へぇ。本当の顔も出来るんじゃない。」 「え?」 甲 賀の言葉と共に、部屋に10人近い黒服の男が侵入してきた。 もちろん、武器を携えて。 それだけでない。 中に入れきれない者どもが、外に離れを囲むようにしていた。 一瞬にして、静かな時間は終わりを告げた。 咄嗟に窓から飛び退いた為に、甲 賀の刀は相手の足下にあった。 甲 賀は丸腰。 後ろには、更 月 姫。 どうしたものかと、相手を見据えた瞬間。 グサッ・・・・ 「え・・・?」 思いも寄らぬ所からの刃。 腰の辺りから滲み出て来る血。 甲 賀は、信じられないように後ろを見つめた。 「ごめんなさい…ごめんなさい…。」 「やっぱり、本当の素顔、持ってるんじゃない。」 謝罪を口にする更 月 姫の手には、血だらけの短刀が握り絞められていた。 傷口を確認して、更 月 姫の事を見つめた。 目に涙を浮かべた更 月 姫。 だが、その口もとは笑みを浮かべていた。 「父上の敵。覚悟!」 止めをさそうと、更 月 姫が甲 賀へと短刀を振りかざした。 その瞬間に、甲 賀は更 月 姫から飛び退いた。 「おっと。」 前にも後ろにも敵。 ちらりと奥の方を見れば、颯 樹ですら四方八方から首に刀を突きつけられて、動けない状況になっていた。 まさか・・・暗殺に来たのに、返り討ちにあるとはね。 しかも、2人もいながら。 甲 賀は自嘲気味に笑みを浮かべた。 「何、僕達が君の父君を殺したって?誰に聞いたのさ、そんな事。」 「誰だっていいでしょ!死ね!!!!今頃、隊舎内も毒まみれでみんな死んでるハズだわ!!!」 そう言いながら、更 月 姫は甲 賀に短刀を向ける。 それと同時に周りにいた男達も、一斉に甲 賀へと刀を振り下ろして来た。 周りにいる男の腹に蹴りを入れ、足下をすくい、なんとか場所だけを確保した。 倒れている男から、刀を奪うと、まるで刃を清めるように勢いよく振り下ろした。 そして、蹴りの痛みで悶絶しているその男を、寸分の迷いもなく命を絶った。 心臓に一度深く差し込んでから、さらに上へとえぐるように、甲 賀の体重をかける。 部屋の壁一面に、血しぶきが舞い散った。 刀を引く抜くとそのまま体制を低くして、刀を構える甲 賀の目は、更 月 姫だけが映っていた。 「一つだけ言っておくけど、みんなをあんまり舐めない方が身のためだよ?」 「どっちがよ!!!」 更 月 姫は再度甲 賀に短刀を振り上げた。 一瞬にして片は付いた。 更 月 姫の持っていた短刀は宙を舞い、更 月 姫の右腕に微かな刀傷をもたらした。 「あんた程度の腕じゃ、今の僕にでもかすり傷一つつけられないよ。」 憎しみを込めた瞳で、睨み付ける更 月 姫は、斬られた腕をおさえたままで、黒服の男達の後ろへと隠れた。 すでに標的と定めた甲 賀の視線は、更 月 姫一点に絞られていた。 「覚悟は出来た?」 「なっ・・・み、みんな、殺しちゃって!!!」 そのかけ声と共に、甲 賀に向かって一斉に刀が振り下ろされる。 まるで甲 賀は次々と流れ作業のように、襲い来る男を斬り捨てていく。 だが。 「この女がどうなってもいいのか!?」 敵を斬りながらも少しづつ、颯 樹の側へと向かって行った甲 賀。 その一声で、甲 賀は攻撃を瞬時に止めた。 チラリと下を見れば、目的の物が手の届く範囲にある。 フン!と口もとを上げると血塗られた刀を、肩で担ぐようにして、颯 樹の首筋に刃を押し当てた男の事を睨み付けた。 「へへへ。やっぱり、こいつの弱点はこの女だ!おい!てめぇら!今のうちに、殺っちまえ!!!」 再び、甲 賀の周りを囲っていた敵が、動き出した。 ニヤリ。 甲 賀のお得意の表情が浮かんだ。 敵の刀を姿勢を低くして交わした後に、そのまま足払いをかける。 そのままの威力で、目の前に落ちていた颯 樹の刀までも天井へと蹴り上げた。 すぐに立ち上がり、先程まで使用していたなまくらな刀を投げ捨てると、落ちてくる颯 樹の刀をしっかりと受け止めた。 まるで剣舞を見ているかのような、鮮やかな動きと早さで、誰もが何が起きたのか理解するのに時間がかかった。 甲 賀はそれまでも計算尽くだったのか、すでに狂喜に満ちた瞳で相手を見据えて、ゆっくりと鞘から刀を引き抜いた。 「さて、誰から殺されたい?」 甲 賀に責め来る敵を、容赦なく一太刀で絶命させていく剣筋。 まるで何処を切ればいいのか、正確な位置を把握しているかのような流れ。 だが、その流れも颯 樹の手前で止まる事となる。 「こ、この女を殺すぞ。いいのか!!」 颯 樹ののど元にさらに刃を突きつけた為に、颯 樹の首から微かな血が流れ落ちた。 一瞬の痛みに、颯 樹は顔を顰めた。 ツーっと特有の生温かい血が、首筋を流れていく。 だが甲 賀は慌てる事も、うろたえる事もなく、むしろその血を見てさらに狂喜が増したかのように、口もとに笑みを浮かべていた。 大きな声で笑ってしまいそうな程に、口は弧を描いていた。 「殺せば?」 「な?なんだと!?てめぇ、この女が弱点なんじゃっ…!!」 甲 賀は興ざめしたかのように、構えていた切っ先を下に降ろした。 「それ、どこ情報だが知らないけどさ、ガセネタ掴まされたみたいだね。残念、残念。」 「本当にそうか、この女を殺してからでも同じ事が言えるのか、試してやる!!!」 ちゃんと頸動脈を抑えている所を見れば、まるっきりの素人さんの集団ってわけでもないのはすぐに分かる。 男は颯 樹に宛がう刃に力を入れようとした直前に甲 賀の声が響いた。 「いいよ、殺っちゃって。だって元々、僕に殺されるかもしれない状態で常日頃いたんだから。今殺しても僕が殺しても、一緒だし。まぁ、あえて言えば僕の楽しみが一つ減るくらい?」 そう話していた瞬間。 颯 樹は懐から銀製の銃を取り出した。 逆に男のこめかみに、銃口を突きつけた。 「そっちが首斬るのと、銃口から火が噴くの。どっちが早いか、競ってみますか?」 「あれ、颯 樹ちゃん。いつのまにそんな新アイテムを購入してたの?」 「天つからの、贈り物です。」 「へぇ、御利益はいかほどか。見物だねぇ。」 ほんの刹那の隙。 その隙を見逃さなかった甲 賀と颯 樹は、同時に動いた。 颯 樹の持つ、銃から銃声が鳴り響いた。 「あいつ!!」 本来なら男が一人倒れるハズだ。 弾丸が米神に命中して、死ぬはずなのに、そんな事はなかった。 空気砲。 相手を驚かすだけの道具だ。 少しでもあの日 向を信用した自分を颯 樹は、激しく後悔した。 それでも一瞬の隙は作れた。 甲 賀に任せれば、隙なんてほんの刹那な時間でいい。 それだけで、甲 賀はやってくれる。 瞬時にそう判断した颯 樹は、その場にしゃがみこんだ。 颯 樹の後ろにいた男達は、甲 賀がその場で作った遠心力を利用して、大きく身体捻りながら、通常以上の威力を発揮し、その横一線の太刀筋一つで絶命させられていた。 布団が真っ赤な血に染まる。 颯 樹は甲 賀の脇腹をチラリと見つめた。 「やっぱり背中は隙だらけなんですね。」 「颯 樹ちゃんに言われたくないね。御利益もなかったみたいだし?」 「全くなかった訳でもないと思いますけどね。」 颯 樹は手に持っていた銃を、床へと捨てた。 甲 賀は颯 樹に刀を手渡した。 「これから、どうしようか?颯 樹ちゃん。」 「首謀者を斬ります。」 「あーっと、ちょっと待った。」 そのまま更 月 姫を絶命させるが如く、颯 樹が足を踏み出した瞬間。 甲 賀は颯 樹の事を腕を引き留めた。 「あと少し待ってね。あと。5…4…3…。」 甲 賀の数が終わらないうちに、正面玄関が破壊された。 その轟音と煙。 颯 樹は咄嗟に目を腕で覆った。 狭い部屋に蔓延した煙に、一瞬むせそうになる。 確実に爆薬を仕掛けられた感じだったのだが・・・その煙の中から現れたのは人物を見て、颯 樹は驚いて目を見開いた。 「へっへーん。参番隊隊長 甲 斐 大 助。ただ今、参上!」 「同じく、肆番隊隊長 阿 波 友 幸。」 ここにいるはずのない、2人の仲間。 「な、なんで!!」 あり得ない状況に、更 月 姫は身体を震わせながら、大 助と阿 波の事を睨み付けた。 楽しそうに笑みを浮かべて、すぐに甲 賀達の元へと駆け寄ってきた。 「俺達、雪 桜 隊を舐めすぎなんだよ・・・おばさん!!!」 「おばっ!!」 大 助の最期の言葉。 言葉の刃とはよっく言ったものだ。 更 月 姫は、怒りで全身をふるわして、射殺すばかりの視線で大 助の事を睨み付けた。 だが、大 助からすればそんな視線に動じるわけもなく。 「貴様の命運も、ここで尽きたと思え・・・おばさん。」 「なっ!」 阿 波までもが、大 助に続くように、更 月 姫に向かって刀を構え直した。 だが、驚くのはこればかりではなかった。 「お待たせして申し訳ありませんでした、甲 賀隊長。」 天井裏から音もなく降り立ったのは、橘 華 隊の副頭領の遠 見 葵。 そしてその後ろから続いて、近江椿が姿を現した。 「やぁ、遠 見君。ご苦労さんだったねー。呼び行かせちゃって、悪かったね。」 「いえ。颯 樹殿の命に関わる事であれば。」 四人は颯 樹を背に隠すように立った。 「葵、椿!それに大 助君たちまで!」 「へへ、加勢に来たぜ、颯 樹。俺達が来れば、もう大丈夫だかんな!」 「お怪我はありませんか、颯 樹様。」 椿は颯 樹の後ろへとまわり、膝をつくと、頭を下げた。 断然劣勢だった状況が、あっと言う間に優勢に。 甲 賀はニヤリと笑みを浮かべた。 「こんなんで驚くのは、まだ早いぜ、颯 樹。」 「ともかく、目の前の敵を一掃する。」 阿 波と大 助は、一斉に敵へと戦いを仕掛けた。 そんな状況を見守る甲 賀だったが、脇の怪我が思いの外酷く、手で押さえた。 「まったく、火薬の量を間違えて調合しないでよ。こっちまでとばっちりだ。」 痛みに耐えるように、甲 賀は大 助達へと軽口を叩いた。 そんな甲 賀に大 助は眉毛を寄せた。 「そんな事ねぇよ!火薬の専門の奴に、ちゃんと用途を話して作ってもらったんだから!」 「ふーん・・・専門がねぇ。」 甲 賀は、充満する煙を見て、ニヤリと笑みを浮かべた。 ふわり・・・と他の手が、甲 賀の脇腹へと伸びた。 とっさにそれを振り払おうとした甲 賀は、意外な人物に振り払う事も忘れて直視してしまった。 それは葵の手だった。 「遠 見君・・・何、その手。」 「応急処置ですが?」 当然だろうと言わんばかりに、葵は淡々と怪我の応急処置を始めた。 軽く布をあてて、さらしで巻き付けると、止血はしたようだった。 そして、椿は甲 賀へ一本の刀を差しだした。 見覚えのある刀に、甲 賀は苦笑した。 「まったく、どこまで過保護なんだろ。大 和さんってば。」 スルリと鞘から刀を抜くと、キーン…と澄ました金属音のような不思議な音が鳴った。 名刀とうたわれた業物。 さすがだと、甲 賀はその刀を見つめた。 よいしょっと刀を肩に担ぐと、体制を低くした。 「颯 樹ちゃん、僕の後ろを任せてあげようか?」 「遠慮します。」 「あら、じゃ葵君達、お願いね。」 軽口を叩きながら、向かってくる敵へと刃を振るう。 先程以上の剣筋に、さすがの颯 樹も目に止める程だった。 更 月 姫は、足下に墜ちていた甲 賀の刀を咄嗟に拾い上げると、壊れた窓から抜け出した。 「あの女が逃げたぞ、甲 賀さん!!」 「わかってる!!」 視界の端で捕らえていた更 月 姫の行動。 だが、それを追うにしても目の前の数の男どもをまず一掃しない限りは、進む事も出来ない。 だが、甲 賀は別段慌てる事もなく、不敵な笑みを浮かべるだけだった。 そんな甲 賀の表情を見て、大 助は背中に嫌なものが走った。 「うわぁ、極悪人面だよ。甲 賀さん。」 予め指定されていた場所へと走って行った。 そこには、皇太子と日 向が影に隠れるように、甲 賀達の部屋を見つめていた。 あと少し。 あと少しで、甲 賀の刀を届ける事が出来る。 更 月 姫は、もつれる足を叱咤しながら、必死に走った。 皇太子達の姿が見えると、更 月 姫はうっすらと笑みを浮かべた。 これで何もかも終わる。 そして、雪 桜 隊は・・・和 臣は、私のもの。 髪を振り乱して、走り寄ってくる更 月 姫。 「皇太子様!これが、瞬の刀!!」 遠くから叫んだ。 その瞬間に皇太子は、目頭を押さえた。 「脳のない女に用はない。満。」 「おーやま。随分と冷たい事を。」 「行け。」 日 向が数歩前に出迎えると、更 月 姫は刀を前に差し出しながら、走って来た。 あと少し。 あと少しで着く。 その瞬間だった。 日 向が刀の口火を切ろうとした瞬間だった。 更 月 姫の背中に無数の矢が突き刺さった。 いくつかは貫通して、道に更 月 姫の血が吹き上がった。 それでも、彼女は刀を渡そうと、ゆっくりと歩いた。 だが、それを許さないように、次の矢が彼女をさらに貫いた。 心の蔵に到達した矢が一本。 更 月 姫は目を見開いて、その場に膝をつけた。 日 向がチラリと上を向けば、宿を取り巻くようにいるのは・・・海軍であるはずの梅 観 隊。 すでに竹 千 隊は、梅 観 隊によって戦闘不能にされいた。 多くの部下が、両手を後ろに縛られて、膝をついて座らされていた。 「チッ。」 日 向は、辺りを見渡し、小さく舌打ちを零した。 その指揮を執ってるのはもちろん大将の和 泉彰だった。 はってでも、届けようとする更 月 姫。 「あーらま。梅 観 隊まで出動して、大きな事になってもうたなぁ。」 「あ・・・き」 更 月 姫の口から、皇太子の名前が零れそうになった瞬間、日 向は口火を切ると、一瞬のうちに更 月 姫の首を切り落とした。 そこでやっと理解したのだろう。 自分も、利用された一つ道具に過ぎないと。 離れた首から、涙が零れ出た。 ただ、羨ましかった。 仲間に囲まれて、楽しそうにしている颯 樹が。 羨ましかった。 温かい家族のような、そんな団らんの中心に常にいる颯 樹が羨ましかった。 颯 樹が邪魔だった。 颯 樹がいなくなれば、和 臣は自分の物になると思っていた。 その時、皇太子から密書が更 月 姫に極秘に届けられた。 そこには、雪 桜 隊がその昔・・・まだ義勇軍として名も無き頃、嘩一族の襲撃に加わって居たと。 そこで伊 勢 颯 樹の功績は目を見張る程のものであり、今の地位が彼女を確立したと。 父、弟、母、妹、すべての家族を惨殺したのは、伊 勢颯 樹であると。 その書状には書かれていた。 詳しく知りたければ、密者を送るので、そのものと皇太子宮殿に来るようにと書かれていた。 更 月 姫に選択権はなかった。 すぐに皇太子宮殿へと足を運んだ。 そこに待っていたのは、伊 勢 颯 樹の暗殺計画。 そして、雪 桜 隊を全滅させる為の毒薬。 更 月 姫は、毒薬を見て・・・顔を左右に振った。 九 条まで殺せない・・・と。 そこで皇太子から交換条件がだされた。 その美しい身体を差し出せ・・・と。 更 月 姫は、迷うこと無く皇太子に自分の「春」を手放した。 それで九 条が助かるのであれば。 安い代価だと。 それからと言うもの、何かある毎に呼び出されては、皇太子と身体を合わせる時間が増えていった。 これも、全ては九 条を守る為。 そして、颯 樹を殺す為。 颯 樹を殺しても、咎め無しとの約束まで取り付けていた。 だからこそ、更 月 姫は献身的に皇太子にその身を捧げ続けていた。 「更、甲 賀 瞬の刀を奪えるか?」 「難しいと思います。常に手にしてますから。」 「そこをお前の賢い知恵で、なんとかならんか?」 そう言って、絶好の長期休暇の話しを聞いてこの場所に連れて来た。 何かあった時には、竹 千 隊が援護をしてくれると約束して。 だが、すべての約束は嘘だった。 「ほんま、可愛そうな子やね。今頃、気づきよった。」 日 向は転がる首を見下ろしながら、呟いた。 |
後書き 〜 言い訳 〜
ここまで読んでくださり
心より深くお礼申し上げます。
文章表現・誤字脱字などございましたら
深くお詫び申し上げます。
掲載日 2012.05.29
再掲載 2012.02.02
イリュジオン
※こちら記載されております内容は、全てフィクションです。