【 第 九 話 】 


食事をしていた時に唐突に九 条からの長期休暇を言い渡された。
颯 樹は咄嗟に相 模と大 助へと振り返った。
二人は、ガッツポーズして愛想良くニコニコしながら手を振っている。
どうやら、あの二人が九 条に直談判してくれたようだ。
颯 樹は、九 条の事を見上げた。

「10日もですか?」
「ああ、そうだ。本来おめぇが取らないといけねぇ非番からすると、少ないのが現状だが、これがギリギリなんだ。すまねぇな。」

突然、10日間もお休みをもらうと言われて…やることがなくて困ってしまう。
隣で聞いていた更 月 姫は、嬉しそうに颯 樹の手を取って喜んだ。

「颯 樹ちゃん♪だったら、温泉にでも行かない?二人でゆっくり女の子だけの時間をすごしましょうよ!」
「あ、それいいね。賛成。こんなむさ苦しい所に年中無休でいたら、身体が腐っちゃうよ。」

更 月 姫の提案に乗ってきたのは、颯 樹の逆隣に座っていた甲 賀だった。
ニコニコとした笑みで、小さく手まで上げている。

「あら、瞬だって【男】じゃない。私達、【女】だけで楽しみましょうよ。」

颯 樹は驚いて、更 月 姫の事を見た。
あの甲 賀の事を「瞬」と呼び捨てにするとは。
この部隊でも、数少ないと思うのに、更 月 姫はまるで言い慣れてるように、「瞬」と自然に口からついて出ている。

「ね、和 臣もいいでしょう?颯 樹ちゃんが一緒なら、外に出ていいって言ったもんね?」
「それはそうだが・・・。」

困ったように、九 条は颯 樹の事を見た。
なんとなく颯 樹が居心地悪るそうにしているのを見て、九 条は腕を組んで考え込んだ。
そこに、絶対的な指令塔の大 和が、朝食を食べに食堂に入って来た。

「オミ、いいじゃねぇか。ちょっと足伸ばすくれぇ。ちょうど、瞬の野郎も非番が重なっているんだし、三人でゆっくり湯にでも浸かって、疲れを落として来りゃいいじゃねぇか。」
「だけど、大 和さん。」

九 条が何かを言おうとしたが、大 和の手に寄って制されてしまった。
こうやられてしまえば、どうにも出来ない。

「うわぁ、さっすが蒼仁♪話しが分かるわね♪」
「いえいえ。姫さんの願いを叶えるのも、雪 桜 隊預かりとしての責任者の仕事だからな。いいな、伊 勢。」
「・・・はい。」

やったー!っと嬉しそうにはしゃぐ更 月 姫。
格子牢に入っていた頃とは、全く違う。
完全に緊張も取れて、隊長格とも上でもなく下でもなく、普通に会話する。
すべては、颯 樹が少しでも緊張が取れるようにと、みんなといる時間を多くしたのだったが。
気がつけば、自分以上に更 月 姫はみんなと仲良くなっているようだった。
何故か、一人その場に置いて行かれたような、そんな感覚に陥った。
綺麗に新調した着物。
市場で、みんながそれぞれの好意で買って来た、調度品の数々。
自由に外に出れない分、そうやって全員が更 月 姫に対して、哀れに思ったのか、特別扱いをしていた。
それは、一般兵卒も同じ事で。
いつしか、更 月 姫は雪 桜 隊の守るべき姫君と言う位置づけになっていた。
そんな更 月 姫を余所に、九 条は席を立ち上がった。
一瞬、更 月 姫に視線を向けると、その視線に気がついた更 月 姫もにっこりと少女特有の笑みを浮かべた。
だが、九 条はため息と共に、すぐに視線を外して前を向いてしまった。

「伊 勢、着いて来い。」
「え、でも。」

颯 樹は咄嗟に更 月 姫と九 条を交互に見た。
更 月 姫の護衛が、側を離れていいのか。
でも九 条の言葉も絶対的だ。

「僕が一緒にいるから、平気だよ、行っておいでよ、颯 樹ちゃん。」

甲 賀の好意に甘えて良いものか・・・
どうしようと迷っていた時、更 月 姫はにっこりと満面の笑みを浮かべて、颯 樹の肩をポンと気軽に叩いた。

「颯 樹ちゃん、お仕事でしょ?いってらしゃい。私には瞬がいるから、平気よ。何かあれば守ってもられるものね?」
「非力なお嬢様を守るなんて、なんか正義の味方っぽくていいね。」
「ぽいんじゃなくて、そうなの!いってらっしゃーい。」

颯 樹を無理矢理に席を立たせると、更 月 姫は先程まで颯 樹が座っていた席へと移動した。
自ずと甲 賀の隣になる。
嬉しそうに頬を染めて笑みを浮かべる更 月 姫。
最初の頃の、颯 樹だけしか警戒心を解かなかった姫君が、まるで嘘のようだ。
颯 樹は、甲 賀に頭をさげた。
甲 賀もニコニコと自分には向けた事のないような笑顔で更 月 姫の話を聞きながら、適当に片手をあげて了承の意を示した。
更 月 姫の周りに、どわっ!と雪 桜 隊の連中がむらがった。
更 月 姫を中心に話しがまわり、笑い。
そんな声を背に受けながら、九 条の後を颯 樹は俯きながら着いて行った。
食堂を出ると、九 条は袖口を合わせて腕組みすると、チラリと後ろを振り返った。
向こうの角度からはこちら側は見えない。

「あの女。たいした肝っ玉を持ってやがる。」
「更 月 姫が?」
「おめぇと大 和さんが、湖に行っちまって、騒いでいた事があっただろう?」
「ああ・・・ええ。」

思い出したくない過去を出されて、颯 樹は顔を背けた。
そんな颯 樹を見て、九 条は軽く口もとを上げると、自分の自室へと歩き始めた。
ゆっくりとまるで颯 樹の歩幅に合わせるように。

「あいつ、眠りこけていたんだぜ。あれだけ俺達が騒いでいても。」
「相当疲れていたんじゃ。」
「仮にそうだったとしても、お前に見せていた警戒心からすると起きるのが普通だ。あの騒ぎの、しかもあの殺気渦巻く中で、少しも不安にならねぇ方がおかしい。」
「でも、みんな楽しそうだよね。」
「そう見えるんなら、お前の目は節穴だな。」

九 条の言葉で、初めて颯 樹は顔を上げた。
知らずに九 条の足は止まっており、ジッと颯 樹の目を見つめていた。

「九 条さん?」
「感情に左右されてるようじゃ、真実は見えては来ねぇよ。颯 樹、茶の用意して俺の部屋に来い。俺は先に行ってる。」

驚いたように固まった颯 樹の肩に軽く手を乗せて、九 条は自分の私室へと向かって行った。
颯 樹は、後ろ姿の九 条に頭を下げてから、炊事場へと向かった。
炊事場には、数人の歳行った兵卒の人が、忙しなく動いていた。
颯 樹が顔を出した途端に、全員は手を止めて入り口に嬉しいそうに駆け寄った。

「「「「伊 勢さん♪」」」」
「みんな忙しそうだね。ちょっと、九 条副将のお茶を貰いに来たんだけど。」

颯 樹は炊事場の中へと足を踏み入れた。
いつものようにお茶の準備を始めた颯 樹。
そこに一人の男が近づいて来た。

「颯 樹ちゃん、ちょっといいかな?」
「藤治郎さん?」

藤治郎と呼ばれる古株の古武士の後に、ついて炊事場の勝手口を出た。
そこは小さな空間が出来ており、ちょっとした密談にはもってこいの場所だった。

「更 月 姫って子、気をつけた方がいいです。」
「なんで?」
「たまたま聞いてしまったんですけど・・・。」

藤治郎の話では、女性隊員を集めて、颯 樹の悪口を言っていたと言うのだ。
しかも、幹部連を自分の子分のように扱っていると。
少しでも、他の幹部と口をきこうとすると、酷く怒られ、先日は折檻を受けたと話していた所を、聞いてしまったと言うのだ。
颯 樹は、別段驚くこともなく、静かに聞いていた。

「私は、貴方がそんな事をする人じゃない事は、よく幼少時代からよく存じ上げております。だから、本当に気をつけて下さい。」
「うん、大丈夫。ありがと、藤治郎さん。」

颯 樹はニッコリと笑みを浮かべると、九 条と自分の分の湯飲みを持って、炊事場から姿を消した。
まあるで予測していたかのような、冷静な颯 樹の対応。
さすがだ・・・と藤治郎は、心から称賛を送っていた。



トントン

「九 条さん、颯 樹です。」
「おう、入りな。」

ゆっくりと障子を開けると、そこには九 条の他に以外な人物が座っていた。

「相 模さん!?」
「よっ!」
「なんでここに!?」
「俺は別に姫サンの接待役じゃなねぇからな。今頃、瞬や大 助達が散歩だとか適当な事言って、市中見回りを一緒に済ませようって魂胆じゃねぇの?」

散歩と市中見回りが一緒って・・・。
なんと言うか、甲 賀らしい一石二鳥の考え方。
颯 樹はめまいを覚えた。
もしも捕り物になんかなったら、大変だ。
すぐに更 月 姫の元に向かわないと。
颯 樹は九 条の事を見たが、九 条は「座れ」と言うだけだった。
仕方なく、相 模と九 条にお茶を差し出すと、相 模の横に颯 樹は正座をして腰を落ち着かせた。

「さて、相 模。お前の見解を教えてくれ。」
「詳細はわからねぇけど、颯 樹ちゃんに悪意を持ってる事は確かだな。」
「私に、悪意!?」

先程の藤治郎の話も、似たようなものだった。
彼女にそこまで嫌われるような事をしたのだろうか?
颯 樹は胸を押さえた。

「おめぇが悪いんじゃねぇ。」

きっぱりと言い放つ九 条は、閉じていた目をゆっくりと開いた。

「奴さん達も、随分とあくどい事を考えつくもんだ。」
「ああ、ほんとに。」

相 模と九 条の表情。
雪 桜 隊の間者の件も、未だに解決出来ていない状態。
普段なら、九 条があっという間に処断しているはずなのに。
今回にあたっては、随分と時間がかかり過ぎていた。
颯 樹は、答えが見えたようにゆっくりと話した。

「目的は、私。」
「一番近くにて、寝床も一緒。警戒されずに、一番殺れるな。単衣姿であれば、いくら非力な女でも、一刺しで天つ行きだ。」
「だが、不思議なのはその理由だ。簡単な理由で、人を殺した事がない女が殺そうとするに居たる経緯だ。」

女が殺意を抱くとき。
颯 樹は自分の身に起こった過去を一瞬振り返った。
自分が初めて人を殺めた時。
そして、今も殺め続ける意味。

「もし、更 月 姫にとって私が私怨の対象であるのだとすればっ」
「甘んじて受けるか?その後の雪 桜 隊はどうするつもりだ、てめぇは。」

九 条の言葉に颯 樹は唇をかみしめた。

「伊 勢、雪 桜 隊副将として命令する。一緒に温泉地に赴き、あの女を粛正しろ。」
「九 条さん!!!」

淡々と話す九 条に、さすがの相 模を声を荒げた。
颯 樹がどれほど更 月 姫に対して、労力を惜しまなかったか、近くで見ていて痛い程わかる相 模にとっては、簡単に「殺せ」と言う九 条の言い分が納得いかなかった。

「更 月 姫にだって、言い分ってものがあるはずだ。」
「それを聞いて、どうなる?お前が報告して来たんだろう?一部の兵卒と密会をしている現場を何度か押さえたと。しかも、それは阿 波がたたき出して来た答えと同じだ。」
「阿 波さんが・・・。」

密偵の役割をしている阿 波の信頼は、九 条の中では絶大なものだ。
いや、雪 桜 隊随一と言えるかもしれない。
阿 波の思慮の深さで、間違えた事は一度もない。
それ故の決定だと。

「でも、阿 波だって、人の子だ。間違える事だってある。人は完璧なんかじゃねぇよ。」
「ならば、このまま颯 樹を見殺しにしろと言うのか?お前は。」
「そんな事言ってねぇ!!!ただ、時期尚早だって言ってるんだよ、俺は!」
「それで時期を逃したらなんとする?」

相 模と九 条は互いに睨み合って黙り込んだ。
この二人、普段はかなり気が合うように見えるのだが…仕事の話しになると、必ずと言っていいほどに対立をする。
今もそれだ。
相 模は、プイと九 条から顔をそらした。

「だから、瞬の野郎を連れて行くって言うのかよ。」
「・・・あれはアイツが勝手に言い出した事だ。」
「ケッ。あいつの気まぐれかよ。」

ふて腐れたように、言葉を吐き出す相 模に、颯 樹はオズオズと応えた。

「相 模さん。私は、甲 賀隊長はとんでもなく我が儘で、意地悪で、気まぐれで、子供みたいにすぐに機嫌悪くなったり、良くなったりして、本当につかみ所がない人なんですけど。」
「伊 勢…随分と瞬に対して溜まってんな。」
「でも!!!今回の件に関してだけは、気まぐれで一緒に行くと言ったとは思えません。」
「なんでそんな事が言い切れる!?」

相 模も知らずに感情的になって颯 樹の事を睨みながら、凄んだ声を出してしまった。
瞬間に颯 樹はびくっと身体を震わせて、俯いてしまった。
両手で自分の袴をギュっと握り絞める小さな手。
九 条はチラリとそれを見やると、大きなため息をついた。

「相 模、おめぇはどっちの味方なんだ?」
「俺はそう言う事を言ってるんじゃなくて、女1人になっちまった更 月 姫が不憫で。」
「戦で女1人になって軍隊にまで入って来た奴を、お前は何年見て来たんだ?」

九 条の言葉で、相 模は目を見開き颯 樹の事を見た。
颯 樹は何かに絶えるかのように、ギュッと小さな手で袴を握り締めて、唇をかみしめていた。

「更 月 姫は不憫でも、こいつは不憫じゃねぇって言いてぇのか?」
「そうは言ってねぇだろ!伊 勢には、生きる道が」
「颯 樹ちゃんにとって、人殺しさせる道が、生きる道なの?随分な道だね。」

スー・・・と障子が開くと、そこには甲 賀が立っていた。
周りを確認してから、素早く中へと入って来た。

「どーも。と〜んでもなく我が儘で、意地悪で、気まぐれで、子供みたいにすぐに機嫌が変化する甲 賀君です。」
「す、すみません。」
「別に謝らなくてもいいよ。的確に僕の性格を見抜いてるから、感心したくらいだしね。」

聞かれていたのだ。
颯 樹はさらに肩を小さくした。
颯 樹の脇に腰を降ろすと、甲 賀は颯 樹の手を見つめた。
ギュっと握り締めているその力は、袴が皺になってしまうほどの力。

「サガさんには悪いけど、あの更 月って子。注意した方がいいよ。」
「瞬、おめーまでそんな事言うのか?だったら、ここであいつの味方は1人もいねぇじゃねぇか。天涯孤独で、可愛そうじゃねぇか!」
「天涯孤独・・・果たしてそうかね?」

甲 賀は懐から一枚の紙を九 条の前へと出した。
それはある手紙。
差出人は、皇太子
宛名は、更 月 姫

「瞬、この手紙どっから!」
「不審者がいたから、颯 樹ちゃんと2人で斬っちゃっただけ。そしたら、そいつの身元確認しようとして、それが出てきたの。ね、颯 樹ちゃん。」

颯 樹は、小さく頷くだけだった。
こんな話しは聞いていない、九 条は颯 樹へと視線を向けた。

「俺には報告して来てねぇぞ。」
「ああ、それね、僕がしなくていいよって言ったんだよ。変に騒ぎになっても嫌だし。ともかく中身を読んでみてよ。面白い事が書いてあるから。」

そう言いながら、甲 賀は握り絞めている颯 樹の手の上に自分の手を載せた。
颯 樹の手を取ると、自分でも驚く程に握り締めていた事がわかる。
そして、甲 賀はまるで手品のように颯 樹の手の中に3粒の唐菓子を転がした。

「僕、唐菓子が大好きなの、知ってるよね?」
「はい。」

ニッコリと微笑む甲 賀は、まるで子供が自慢するかのような笑み。
珍しい甲 賀の笑みに、颯 樹は驚いて顔を凝視してしまった。

「分けてあげる。僕の元気。」
「あ、ありがとうございます。」

食べて、食べてと急かす甲 賀に、颯 樹は一粒口の中に入れた。
薄甘い上品な甘さが口の中に広がっていく。
自然と颯 樹の身体から力が抜けて。微かに口もとに笑みを浮かべた。
そんな些細な変化を見て、甲 賀は嬉しそうに目を細めた。

「で、九 条さんもサガさんも、どうするの?」

その内容は、あまりにも颯 樹に対する言動の域を超えてるようだった。
皇太子自らが、まるで颯 樹を恨んでいるかのような文面。
どう読んでも、単純な姫であれば、颯 樹に怒りの矛先は向けられるのは必至。
九 条は、眉間に深く皺を寄せた。

「僕としては、更 月事態もトカゲの尻尾だと思うけど。斬っても意味がないと思うよ。」
「だが・・・。彼女は格子牢で・・・。」
「それだってさ、本当にそう言う行為があったかなんて、誰も確かめてないんだよ?格子牢ってだけで、みんな直結させてるみたいだけど。僕は、そもそもの原点が間違ってると思うけどね。」

甲 賀の言う通りだった。
誰も、その事に関しては心の傷になっていると思って、聞く事はなかった。
だが、甲 賀はニヤリと笑みをもらした。

「男に無理矢理に抱かれたような子が、こんな男所帯に連れて来られて文句も言わず。部屋に閉じこもる事もせず、しかも、みんなを呼び捨てに出来る。男を怖がるよりも、男を誘惑してるとしか思えないけどね。」
「それは・・・過去を忘れようと思っての行為なんじゃ!」
「過去なんて、忘れられないよ。絶対に。しかもその身に起きた出来事なら、なおさら…ね。」

ぽとん・・・ぽとん・・・
畳の上に、唐菓子が二粒、転がり落ちた。
その音に全員が颯 樹の方へと視線を集中させた。
まるで、何かから身を守るように、自分をギュッと抱きしめる颯 樹の行動。
ガクガクと身体も震えいた。
そんな颯 樹の行動に思い当たる節がある九 条は、小さく舌打ちをして、右足を一歩前へと出した。

「瞬、よせっっ!!今、颯 樹に触れるんじゃねぇっ!」
「え?」

甲 賀が颯 樹の肩に軽く手を乗せようとした瞬間




パァァァン



颯 樹は甲 賀の手を勢い良く払いのけた。
今までそんな事をしたことのない颯 樹に驚く甲 賀。
そんな甲 賀の表情に、颯 樹も目を見開き、そのまま土下座をした。

「も、申し分けありません!!!」

赤くなった手の甲を見ながら、甲 賀は畳に墜ちた唐菓子を拾い上げた。

「別に、いいけど。颯 樹ちゃんには、ちょっと刺激が強すぎる話しだったんじゃないの?」
「いえ・・・そんな事は。」
「何言ってんだよ、伊 勢。顔が真っ青じゃねぇか。部屋に戻って」

相 模が心配して颯 樹を部屋に下がらせようとした時だった。
九 条は、元の位置に座り直しながら、自分の斜め後ろへと視線を走らせた。

「その必要はねぇ。颯 樹、こっちに来てろ。」
「は…はい。」

颯 樹は返事と共に、甲 賀の隣から九 条の隣へと席を移動した。
未だに震える颯 樹に、九 条はため息をつきながら、近くに置いてあった羽織を颯 樹の頭に被せた。

「少し落ち着くまで、そのままでいろ。」
「・・・すみません。」
「確かに女の前で話す内容じゃなかったな。ごめんな、伊 勢。」

颯 樹は黙って首を横に振った。
相 模は居心地悪そうに頭を掻いた。

「サガさんって、颯 樹ちゃんの事、いつもは「女の子」って言ってたのに、あの女が来てから、変わったよね。」
「あの女って呼び方はよせ。あのお方は嘩一族の姫さんだぞ。普通なら、俺達のような輩が顔を合わせられるような相手じゃねぇんだから。」
「そうかな?案外、見れるんじゃないの。」
「はぁ?どう言う意味だよ!」
「瞬、それ以上の無駄口を叩くんじゃねぇ。」

「はいはい」と甲 賀は両手を挙げて、震えが収まってきた颯 樹のへと視線を向けた。
彼女に一体に何があったのだろうか?
普通に考えれば、彼女も「春」を取られた事になるんだろうが。
僕としては、どう見ても欲情するような身体つきではない…と思うんだけど。
それに、そんな事態になる前に、颯 樹であれば瞬殺してるだろう。
うん、ないな。
だとすれば、近しい人間が。
少し、調べても良いかもね。
甲 賀は、もう用はないと立ち上がった。

「どどど何処に行くんだよ、瞬。」
「サガさん、後の事は頼んだよ。僕は、見回りの途中で「忘れ物」って言って戻ってきただけだから。それじゃ、九 条さん。温泉の件は・・・いいんだね?」
「ああ、ぬかるなよ。」
「わかってますって。」

そのまま部屋を出るのかと思いきや、甲 賀は相 模の脇を通りすぎて、颯 樹の横にしゃがみ込んだ。
懐から、先程の唐菓子の入った包み紙が出て来た。
甲 賀はそれを颯 樹の手に持たせた。

「コレは、颯 樹ちゃんにあげる。」
「あ、ありがとうございます。」
「うん。どう致しまして。」

それだけ言うと、甲 賀は部屋から出て行ってしまった。




 

後書き 〜 言い訳 〜
 
ここまで読んでくださり
心より深くお礼申し上げます。


文章表現・誤字脱字などございましたら
深くお詫び申し上げます。
 

掲載日  2011.11.08
再掲載 2012.02.02
イリュジオン


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