【 第 八 話 】 







「はい?」






「聞こえなかったの?満。あの女は、次の仕事で用済み。後始末、お願いね。」

本当に飽きたと言うように、皇太子の座る椅子に腰をかけながら、面白くなさそうに大きな欠伸をする。
竹 千 隊の一番隊隊長と言う地位と共に得たのは、この皇太子の信頼。
大将である武 蔵よりも、側近として常に護衛していた。
だからこそ、皇太子の全てを見て来たと言っても過言ではない。

「せやけど、彼女は雪 桜 隊預かりの姫君。早々に殺すとなると…。」
「その為に、伊 勢 颯 樹の噂を流させ、更 月 姫の身体に折檻を与え続けて来たんじゃない。」
「・・・伊 勢 颯 樹の仕業にみせかけろと言うんですか?」
「違う違う。伊 勢 颯 樹に暗殺して貰えばいいの。あの女には、甲 賀 瞬の刀を僕の所に持って来いと言ってあるし。次の策に使うから…とか言ってね、フフフ。」

甲 賀瞬の刀。
颯 樹以上に、敏感な彼から刀を奪うなんて、余程の『天つ刻』が来ない限りは出来ない。
果たして、あの女にそこまでの力量があるとは思えないのだが。

「どうも更の奴、雪 桜 隊の九 条の事が好きになったから、この関係は辞めさせて欲しいと言って来てね。」
「雪 桜 隊の副将サンを。こらまた、えらいフラレ方しましたなぁ。」
「だから、九 条を生かすも殺すも、お前次第だと言ったんだよ。」

楽しそうに笑う皇太子。
日 向は、笑みを張り付かせたままで、見つめていた。
まるで皇太子は狂ったかのように、ケラケラと笑い続けた。

「そうだ、満。九 条の身辺を洗って。アイツに何か刑罰を与えられるような事を見つけてくんない?」
「そないにいくつも出来ませんは。まずは、更 月 姫の処断から手ぇつけますわ。」
「それでは意味がないし。あいつの前で、あいつの所為で、九 条が苦しむ。僕はそれを見たいだけ。最悪、死罪にしちゃってもいいよ。雪 桜 隊程度の輩は吐いて捨てる程いるからね。」

日 向は静かに頭を下げて退出しようとしたが、足を止めて皇太子に振り返った。

「せや。噂で聞いたんやけど、近く伊 勢 颯 樹に長期休暇が出されるみたいですわ。」
「長期休暇?今頃になって何で?」
「なんでも3ヶ月間ぶっ続けで働かせたとか。」
「あーっはっはははは!雪 桜 隊も似たようなものじゃない!そうかそうか。よし、満。まずは伊 勢 颯 樹の休暇日を探って来て。」

日 向は頭を下げて了承の意を示した。

「それと更に、休暇の話しが出たら伊 勢 颯 樹と二人で遠出したいと騒ぐように伝えておいて。」
「遠出…ですか?」
「そうすれば、自然と伊 勢 颯 樹の監視役の甲 賀 瞬も着いてくる。後は、宿で一網打尽にする。それと同時に、雪 桜 隊の隊舎にこの間開発した、細菌兵器を蔓延させてみるのも面白いかもね。丁度良いから、人体実験してみようよ。学者達も、喜ぶぞ。よし、それは僕が伝えに行って来よう。満、頼んだよ。」

皇太子は椅子から降りると、まるで遊びにいくかのように学者達のいる実験室へと足を向けた。
皇太子宮での、禁断区域。
多くの兵器の開発と、人体実験の場所。
最高機密。
日 向は、仕方なく皇太子の部屋を後にした。
隊舎に戻る際、渡り廊下で自隊の大将である武 蔵と鉢合わせした。

「日 向か。皇太子殿下の面倒見、ご苦労だな。」
「毎日がほんま刺激的過ぎて、凡人に戻りたくなりますわ。」
「・・・皇太子殿下も、殊の外お前を気に入っているからな。そのお心を損なわないように気をつける事だ。」
「了解してます。では、皇太子さんから新しいお仕事もろたんで、行ってきます。」

武 蔵の脇をすり抜けて日 向が外へと出て行った。





 

後書き 〜 言い訳 〜
 
ここまで読んでくださり
心より深くお礼申し上げます。


文章表現・誤字脱字などございましたら
深くお詫び申し上げます。
 

掲載日  2011.11.03
再掲載 2012.02.02
イリュジオン


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